【摺古木山、安平路山】中央アルプス南端の静かな山

シリーズ  日本二百名山  前  
山 名  摺古木山、安平路山
山行日  2006年6月3日(土)
同行者  OAA 8名
歩行時間  7時間50分(休憩含む)
コース 登山口→直登コース→摺古木山→安平路山→摺古木山→自然公園コース→登山口
関連情報             アクセスカウンター
1/2.5万地形図 南木曽岳 [南東]  安平路山 [南西]  安平路山 [北西] 
地名(かな) 摺古木山:すりこぎやま    安平路山:あんぺいじさん  
空木岳:うつぎだけ       越百山:こすもやま    
大平宿:おおだいらしゅく   猿庫:さるくら
行 程
場 所 着時刻 発時刻
 登山口 5:00 5:23
 分岐 6:13
 摺古木山 6:40 7:00
 シラビソ山 7:52 8:06
 避難小屋 8:31 8:42
 安平路山 9:24 9:40
 避難小屋 10:05 10:14
 シラビソ山 10:53 10:57
 摺古木山 11:43 11:57
 分岐 12:38
 登山口 13:13 13:26

  前夜10時半、静岡市役所前出発の予定時刻になってもメンバー1人が来ない。電話で確認すると、翌日と思い込んでいたようだ。この後、焼津駅から乗車のメンバーからも同じく日を間違えた人がいて2名が不参加となる。いつもは、ほとんど日曜山行なので間違えたのだろう。

  安平路山は中央アルプスの最南端にあり、空木岳の南約10kmに位置する日本二百名山の山である。登山路は安平路山の南に聳える一等三角点の摺古木山を経由し笹薮の中、シラビソ原生林を行くワイルド感に満ちた山だ。

  23時10分 焼津ICから東名高速に乗り西浜松ICで下りる。R257,R153 飯田経由で無人村の大平宿付近で夜明けを待って仮眠する。明るくなって悪名高い東沢林道を行く。山側も谷側も崖、いつ土砂崩れや落石があってもおかしくない道だ。道脇にどけてある大きな石がいくつもある。腹を擦ることも一度や二度ではない。乗せてもらっている身では、ただただ運を天に任せるしかない。


  林道終点に自然公園休憩舎がありここが登山口だ。近くにトイレもある。到着は早朝5時、5・6台停められるスペースはあるが、他の車は見あたらない。付近には蕾の固いすずらんが生えている。

東沢林道終点の休憩舎と駐車スペース

  身支度を整え歩き出すと、いきなり笹薮の中の急登。しばらく登ると暗っぽい潅木帯を抜け、朝日が当たり明るいアザミ岳が左に望め開放された気になる。登山路も山腹を巻くなだらかな路となり、左前方に摺古木山が見える。路端にはバイカオウレンの群落が続き、イワカガミやイワウチワも散見される。

左前方に摺古木山を見ながらすすむ

この大岩のすぐ先に分岐がある

  いくつかの沢を渡り、風穴山西側の大岩の辺りで一息入れる。再び歩きだすとすぐに摺古木山へ1kmの直登コースと1.9kmの自然公園コースの分岐に出る。右の直登コースを行く。再びの急登をジグザグにしばらく登ると後方にうっすらとではあるが恵那山が大きく見える。傾斜がゆるむ辺りからショウジョウバカマが目立ちだし、ほどなく一等三角点の摺古木山山頂に着いた。

摺古木山山頂から中央アルプスを望む

  インターネットで調べてみると、2001年には山頂に摺古木山の解説板があり、それには「摺古木山(2168) 当山は中央アルプス南端に位置する名山で,山頂部が急激にとがっているのでこの名がある。木曽谷と共に夏雨が著しく多い。表日本型気候に属し,地質は黒雲母花崗岩で風化が大分進んで砂状であるため崩壊しやすい」と、書かれていたそうだ。とがっているから“摺古木”というのは釈然としないが……。

  山頂からは北西方向に頭を白くした御嶽山、北東方向には6年ほど前に縦走した中央アルプスの主峰が左から木曾駒ヶ岳、宝剣岳、空木岳、南駒ヶ岳、越百山など展望できる。

  軽く腹ごしらえをするが、食欲がなく身体が重い。大の苦手の夜立ちも今年3回目、眠れなくてもウォークマンを聞きながらじっと目をつぶる対処法をとることでだいぶ慣れたと思ったが切り札とはならないようだ。

一等三角点の摺古木山山頂

  単独行の中年男性が軽快な足取りでわれわれを追い越していくと、ほどなくシラビソ山の山頂に着いた。文字通りシラビソに覆われた平坦な所で“白ビソ山頂上”の標識がなかったら、通り過ぎてしまうだろう。

  シラビソ山に向けて出発。深い笹の中を一気に下る。足元が見えず倒木に躓いたりの急降下は予想外に疲れる。いくつかの小さなコブを越えていくのだが、しだいに路は残雪に覆われ判然としなくなる。周りは樹木に囲まれ見通しはよくないし尾根は広い、笹もますます深くなり帰路のルート取りが少し心配になる。

シラビソ山山頂

笹の海原を行く

  10分ほど休んで出発。深い笹かぶりの路だが、かきわけるとしっかりした踏み跡がついている。一方、残雪たっぷりの広々した尾根は、ルート取りが難しそうだ。赤テープなどの目印をしっかり確認しながら歩かねばならないだろう。小さなコブを2つ越え樹林帯から抜けると、目の前に赤い屋根の避難小屋とその後ろに安平路山が望める。

避難小屋越しに安平路山を望む

水場分岐

  薄暗い樹林帯を抜けた後だけに、やわらかな朝の光に包まれた小屋の周辺は、いっそう明るく輝いて見える。まさに、深山を行く者にとってのオアシスだろう。いつまでものんびりしたいところだが、一休みして先に進む。

安平路山山頂

安平路山に向かって一面笹の中を行く

  小屋から10分ほどゆるく登ると水場の表示、右に下る路はあるが雪に覆われ水場は見えない。水場を過ぎるとしだいに傾斜はきつくなり、笹はいっそう深くなる。朝からほとんど食べていないこともあってスタミナ切れか、だんだん皆から遅れだす。笹の海の中、路を外さぬよう慎重に笹をかき分け進む。傾斜がゆるむとほどなく山頂。みなから大幅に遅れての到着だ。待望の山頂だが、樹木に囲まれ展望はない。


  リーダーが記念の集合写真を撮る段になって、「アッ! フィルムが入ってない」と叫ぶ。摺古木山山頂などこれまで撮った写真はすべて空打。予備のフィルムを持っていたこともあり本人は「同じ路を帰るのだからまた撮ればいいのサ」と、すずしい顔。

  山頂を後に往路を戻る。相変わらず食欲はなく身体も重い。それでも下りはなんとか皆について避難小屋まで戻ったが、そのスピードに辟易する。シラビソ山に上り返す辺りから皆についていくのを諦める。笹かぶりの路も残雪の路も前の人についていけば楽なのだが、とてもついていけない。

  ろくな地図しか持っていなかったので、一人になるのが不安だったが、ついていくのを諦めたらとたん気が楽になった。笹の海も慎重に辿れば路を外すことはなさそうだし、残雪の路は判然としないとはいえ目印テープもある。また復路の雪路は大部分登りであり、とにかく上を目指せばピークに出られる。案ずることは少しもないのだ。

笹と残雪、シラビソ山への路

  シラビソ山では、すでにみなくつろいでいた。そのまま先にすすみたいのが本心で「さあ!出発しましょう」と言ってみたが、冗談だろうと誰も取り合ってくれない。疲れた身体には“休まずゆっくり”がよいと思うのだが、先に行くわけにもいかず一休みする。


  シラビソ山からはちょっと下って上り返した後、しばらく下りが続くので十分ついていけそうだが、最後尾をのんびり歩くことにする。笹薮が続く中、小さなコブを3つ越え最後の急坂を登ると摺古木山山頂。この先、登りはないはずだ。ひとまずホッとする。

一面笹に覆われた摺古木山への路

  山頂からは、自然公園コースを下る。歩き出すとすぐにヒメイチゲが目に入る。写真を撮る間にすぐに離されるが、最後尾を行くと決めれば気楽なもの。往路では控えていた花の写真を撮りながらのんびり下ることにする。多少登りもある路を15分ほど行くと中央アルプスの全景が見渡せる展望台。霞がかかってぼんやりとしか見えないのが残念だ。

  展望台からの路はこれまで以上に歩き難い。急斜面の腐りきった残雪はちょっと気を抜くと大きく踏み抜き怪我をしそうな気がする。慎重に下りながらも路端に咲くショウジョウバカマやイワウチワをカメラに収める。

沢を渡りザレ場のトラバース

緑なす斜面を行く

  深い沢に下ったり、ザレ場や緑なす斜面のトラバースなど自然公園コースは変化に富んだ楽しい路だ。枯れ草から顔を出しているキバナノコマノツメを写真に撮るとすぐに尾根コースとの合流点に出た。ここからはまた、往路を戻ることになる。

踏み抜きに注意して残雪帯を下る

  登りでは気づかなかったコミヤマカタバミもカメラに収める。芽吹きのカラマツの下、笹の中のしっかりした路を下って行くと大きなザックを担いだ10人ほどのパーティーとすれ違う。避難小屋に泊まって明日、安平路山をピストンするとのこと。登山口近くになってリーダーたちがコシアブラの葉摘みに余念がないのを尻目にお先に登山口に戻る。

  再び来ることはないと思いながらも悪路中の悪路“東沢林道”を目に焼き付ける。雨上がりや乗用車ではとてもくる気にならない道だとあらためて感じた。大平宿まで戻り、ようやく今回の山行が終わったと思った。


  大平宿から往路を戻る途中、風越山の麓にある名水百選“猿庫の泉”に立ち寄り、4時間半ほどかけて静岡に戻った。

芽吹きのカラマツの下、登山口は近い

:高山植物)  花画像クリック→拡大
群生地多 散見 稀見

バイカオウレン

ショウジョウバカマ

コミヤマカタバミ

ヒメイチゲ

キバナノコマノツメ