見月山】苦い想い出の山再訪

シリーズ  静岡百山       前  
山 名  見月山(みつきやま)
山行日  2006年1月12日(木)
同行者  単独行
歩行時間  3時間20分(昼食休憩除く)
コース  見月茶屋⇔三星峠分岐⇔見月山

  見月山は安倍川を挟んで真富士山の西に位置する。どちらも梅ヶ島街道沿いにあり交通の便は良いのだが、ハイカーに人気の高い真富士山に比べ、見月山の知名度は極端に低い。地形図にはまったく登山路が記されていないし、登山口から山頂まで、手入れの悪い植林帯の暗っぽい路が続き、まったく展望がきかない山だからだろう。それでも“静岡百山”のひとつであり“分県登山ガイド 静岡県の山”にコース案内が載っていたりで、登る人もそれなりにいるようである。

駐車スペース:直進化工事で廃道となった旧梅ヶ島街道

 私も5年ほど前、見月山に登った。単独行で往路を戻る下山時、路迷いのあげく小さく滑落し大怪我をした。あげく、山岳救助隊に助けて頂いた苦い想い出のある山だ。しばらくは思い出したくもなかったがいつの頃からか、どこでどう迷ったのかを知りたいとも思うようになった。今回たまたま、明日から天気が崩れるとの予報を見て、とにかくどこかに登るつもりで馴染みの安倍奥に向かった。出かけてみると思ったより雲が多く、遠望もきかない様子なのでよい機会と見月山に登ることにした。

  自宅に携帯で「これから見月山に登る。前回と同じコースを往復する」と連絡し、見月茶屋の脇から登る。いきなりの急登だが、予想外に路はしっかりと踏まれ、目印テープも良く目につく。10分ほど登ると急登の登山路が10mほど崩壊していてトラロープが張られている。これを過ぎると、再びしっかりした路が続く。“見月山 Y.K 平成元年3月30日”とか“←見月山 紅稜会”などの古い道標や文庫本サイズの黄色い樹脂板に矢印だけ記した静岡市の比較的新しい道標も良く目にするようになる。

梅ヶ島街道沿いの見月茶屋

前回、道迷いをした辺りと思われる

  登山口から1時間ほどして、植林帯の路を大きな稲妻状に登る。前回下山時に、近道をしようと路を外した辺りのような気がするが確信は持てない。登山路はしっかりしているし道標や目印テープも良く目に付く。とても迷うようなところではない。下山時にもう少し詳しく調べようと先に進む。

  植林の中に雑木も目立つようになる。相変わらず展望もなく、急登が繰り返される。路は数ヶ所ガレてはいるが問題はない。稜線に出ると笹っぽい路となりわずかながら残雪もある。笹路の急坂を登ると中平、三星峠からの路と合流する。立ち木に“この人を捜しています”と、カラー刷りの捜索ビラが括りつけられている。行方不明者は1年ほど前、単独で見月山に登った私と同年代の方だ。大掛かりな捜索が行われたようだが……。

稜線の笹っぽい路

  分岐からは、やや下り加減の平坦な路となり、わずか数分ひと登りで山頂に着く。植林帯の小広い山頂には三等三角点があるが展望はまったくない。5年前にはなかったしゃれた山頂表示板が幹に括りつけられていた。


  昼食後早々に往路を下山する。5年前道迷いをしたのは、やはり往路で見当をつけた辺りと考えられる。当時は、下山路右下斜面の太い立ち木数本に白テープが巻かれ薄い踏み跡もあった。直進する登山路は大きなジグザグを切っているので登山路を外しても直ぐに戻れると確信しショートカットした。これが間違いのはじまりだった。

見月山山頂

  森林作業用と思われるショートカットの路と登山路は間違いなく交差したはずだが、調子よく下ってこれを見落としたしか考えられない。踏み跡がなくなり戻らればと思いつつも、雑木林の中だしどのように下っても必ず梅ヶ島街道に出られるとそのまま下ることにした。立ち木などなるべく安全に下れそうなところで登山路に戻れそうな方向を選びながら進んだ。


  かなり下った辺りでガレた急斜面となる。高低差わずか数メートルだが立ち木など確かな手掛かりはない。ここで戻るべきだとは思ったが、下方に梅ヶ島街道も確認できるしガレ場の下はまた雑木林となっている。さんざん迷った挙げ句、ガレ場を下る。ズルッ、数メートルほど滑落し左肘を打った。大変な出血、左袖が真っ赤に染まる。右手と口を使い袖ごとタオルで左肘をきつく縛る。

三星峠分岐に張られた捜索ビラ

  傷の手当てをして再び下る。とんでもない急斜面とはいえ雑木が生い茂り両手を使えばさほど苦労せず下れる。梅ヶ島街道を走る車の音もだんだんはっきりしてくる。あと一息というところで突然、左腕に力がまった入らなくなる。片腕ではいかんともしがたい急斜面、とりあえず近くの大きな木のところで休憩する。右手だけでコーヒーを作り、残りの食料を食べながらどうしようかと考えた。

安倍川に架かる竜西橋から望む見月山

  2時間ほどしたが、相変わらず左腕はまったく力が入らない。とても片手で下れる斜面ではないし遭難も覚悟したが、自分でも驚くほどに冷静でいられた。自動車の音の切れ間にかすかな人の声が聞こえる。「おーい!」と大声をあげてみる。何の応答もない。静まりを待って再び、大声で叫ぶがどうしても「助けてくれ!」と言えない。さらに数十分、意を決して「助けてくれー!」と、精一杯の大声を出すと、下から「どうしたんだー」と応じてくれた。事情を大声で伝え、警察から山岳救助隊へと連絡を取って頂いた。

 2時間ほどして山岳救助隊の方が到着。3人の隊員が登ってきてくれた。ハーネスを付けザイルで確保してくれたので、右手だけでもなんとか自分の足で下ることができた。下で待機してくれていた救急車で応急手当、骨が皮膚の外に出ている開放骨折とのこと。病院で診てもらうと即、手術、入院となった。何とも申し訳なく、反省しきりの苦い想い出だ。

見月山登山口付近から安倍川対岸の真富士山

関連情報                          アクセスカウンター
1/2.5万地形図 駿河落合 [北東]
ガイドブック  ▼【静岡県の山】 加田勝利 1996 山と渓谷社
▼静岡の百山  静岡百山研究会編 1991 明文出版社
交通 ▼静岡駅 8番乗り場(安倍線)=静鉄バス 58分 ¥920⇒大河内学校前 
しずてつジャストライン 新静岡バスセンター  tel:054-252-0505

  “路に迷ったら戻れ”は山歩きの常識、特に下りでは鉄則と、頭に叩き込んでいたつもりだが、沢筋ではないし下りさえすれば必ず梅ヶ島街道に出られると、突き進んでしまったことを後悔すると共に、単独行の時は安全な上にも安全な路を行くべきでショートカットなどはすべきでないと反省した。 あれから5年近く経つ。路迷いや、少しでも踏み跡に異変を感じると戻って確認することにまったくためらいがなくなった。また、以前にも増して、山歩きに臆病になったような気がする。