山欠病の常備山

　昨夜のお酒が残っていることもあり，行こうか行くまいか迷っているうちに８時を回ってしまった．花沢の駐車場に着いたのは８時半，７０台ほど停められる大きな駐車場に車は１台だけ．身支度を整え歩き出す頃，もう一台がやってきた．
　いつものことだが歩き出しは超スローペース．風が冷たい．谷間の狭い道に焼津市長候補者の選挙カーが「○○です．最後のお願いに参りました！」とがなり立てながら近づいてくる．登山者に選挙権があるかないか迷っている風な表情を見せながら脇を通り抜けていく．ほどなくしてＵターン，再び身を小さくして道を譲ると，今度は申し訳なさそうな表情を見せてすれ違って行った．

　法華寺への参道に分かれて直ぐ，日本坂への登り口がある．墓地脇を抜けると，登山道らしくなる．林道を横切る辺りからいろいろな野の花が目につきだす．デジタルカメラに収めながらさらにさらにゆっくりのペースで歩く．

　路端の花を撮っていると足音が聞こえる．駐車場を出るとき車で来た人のようだ．撮影を中断し，道を空けて「おはようございます」と声を掛けたが，目の前を無言のまま硬い表情で足早に通り過ぎて行った．中年女性の単独行だ．「？？？」「そうか！，待ち伏せしていると思ったのかも・・・」
　首都圏では女性専用の車両ができ，男性の中にも賛同者が少なくないと聞いた．「疑われるのは迷惑だ」と言うことらしい．同感だ．

　「李下に冠を正さず」，女性の気配が全くなくなってから，再びゆっくりと歩き出す．いつもより相当にゆっくり歩いたつもりだが，７・８分遅れで日本坂を通過した．しばらく行くと右手の展望が開け，静岡市街の向こうに雪をかぶった富士山が見える．その右には駿河湾が広がっている．伊豆半島の姿は見えないが，行く手右前方に真っ白になった赤石・荒川(ﾀﾞﾄｵﾓｳ?)など南アルプスの山がくっきりと見える．南アだけは満観峰からは見にくいので，ここで写真を撮った．

　廻沢分岐から，いつもうんざりさせられる階段状の長い急登となる．息を切らさないようゆっくり登る．急登が終わるころ，上を見上げると件の女性が目に入る．驚かさないよう，２０ｍ以内に近づかないペースで歩くことにしたが，いかにも遅い．いつもなら「お先に」と気楽に声を掛けて追い抜くのだが，あの硬い表情を思い出すと躊躇する．

　小さなピークの登り口に巻き道がある．いつもは巻き道を使うのだが今日は，先行者が巻き道を行くのを見て大急ぎで小ピークを越えることにした．合流点を過ぎ，振り返りもせず急ぎ足で「なに，バカやってんだ」と自問自答しながら満観峰を目指す．

　富士山をはじめ３６０度近い展望は，何時来ても満足させてくれる．まだ，誰もいない．ベンチでコーヒーの準備をしていると，ランニング姿の空身で男性が登ってきた．二言三言声を交わしていると，件の女性が登ってきて，無言で遠く離れたベンチに座った(ﾋﾛﾋﾞﾛｼﾀﾁｮｳｼﾞｮｳﾃﾞﾖｶｯﾀ)．

　ドリップ式のコーヒーを入れ，富士山を見ながらゆっくりと飲んだ．瞬く間に時間が過ぎる．誰もいなくなった頂上を後にして，鞍掛峠経由で高草山に向かう．鞍掛峠から次々とハイカーが登ってくる．峠の手前では，知人がリーダーの５人パーティーとすれ違う．「も一度，一緒に満観峰へ登りましょう」と声をかけてくれた．少し迷ったが，午後の一仕事を思い，やめにした．
　鞍掛峠を少し登ったところから，北に満観峰が望める．さらにしばらく歩くと路の両側に赤い実をつけた草がたくさん生えていた．山頂まで通じる林道が見え隠れする登山路をたんたんと歩く．あまり好きになれない路だ．静岡百山のひとつ高草山山頂からの見晴らしはあまり良くないのだが，２０人ほどの人たちでにぎわっていた．

　一息入れた後，石脇に向かって下る．下山路は里山の宿命，舗装林道を何度も横切るが，要所に道標があり迷う心配はない．焼津港とその先に広がる海原を見下ろしながら，明るい茶畑の中を下るのは快適だ．ここにも道ばたにけっこう花が咲いていた．

　登山路から林道歩きに代わりしばらくするとＴ字路にぶつかる．花沢への標識に従い，左へ曲がる．東南斜面山腹の林道歩きは明るく，のどかで気持ちがよい．両側斜面には大きな実をつけた蜜柑畑が続く．高崎不動尊を経て花沢城址を過ぎると駐車場は近い．

満観峰山頂

丸子富士の左に南ア

満観峰山頂より富士山を望む

　天皇誕生日の連休，連れ合いは大掃除を予定していたようである．勿論，手足として私を当てにしているのは間違いない．忘年会続きで年賀状もまったく手つかず．こんな時はお決まりの「満観峰〜高草山コース」に行くことにしている．これなら，午後はたっぷりと一仕事できるはずである．

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