好天の南ア,日本百名山完登のお供で光・聖


 深夜2時頃,易老度に着いてそのまま狭い車の中で仮眠をとる.なれない身ではとても眠れたものではない.気持ちよく眠っている仲間を見ると,今日の長い急登への不安がどんどん増してくる.
 5時前くらいから起きだし朝食をとった後,共同装備が分配される.非常用簡易テント2張りの内1張りが渡される.食料ならだんだん減る楽しみがあるのだが,もちろん文句を言える立場にはない.今日の登りを思い,ますます緊張する.

 みなで軽い体操をした後,登山開始.遠山川にかかる橋を渡り易老岳までの高度差1500mがとりあえずの目標だ.橋を渡るとすぐに急坂となる.地図からはこれが易老岳山頂まで続くことになっている.予想以上の手強さだ.うっそうとした原生林の中を黙々と登る.面平付近から目につきだしたカニコウモリが唯一の慰めだ.一歩一歩急登をこなし,登りはじめて4時間強,ようやく易老岳山頂についた.光岳との標高差はあと250m足らず,相変わらず視界は開けないが,苦役からは開放されたような気分になる.

 軽い食事をして易老岳を後にする.あまり下ってくれるなとの願いもむなしく三吉ガレにつくまでに,かなりの標高を返上してしまった.しかしながら,ようやく展望が開けてきたこともあり気分的には楽になった気がする.兎岳や恵那山が見える辺りで休憩.付近はトリカブトやアキノキリンソウの群落地でもあり,疲れた身体を癒してくれる.

 地図にある三吉平が何処であるかは分からなかったが,沢状のところをしばらく登り,トリカブトの大群落を過ぎる辺りから見晴らしが一気に良くなる.手が痛くなるほどの冷たい水が湧き出している水場を過ぎると直ぐに,イザルヶ岳の分岐に出る.待望の光岳が小屋の右手に見える.小屋は近いし,広々して気持ちの良い草地の木道歩きは,まさにルンルン気分.幸せなひとときである.

 小屋で出していただいたお茶がことのほか美味しかった.一休みした後,光岳へ出発.ふみよさんにとって99座目,私にとっては75座目,樹林に囲まれた山頂に立つ.光岳の山名由来の光石まで足を延ばす.光石は岩が突き出たところでありその頂からの展望がとても良い.

アクセスカウンター

 午後2時頃小屋へ戻る.早速,酒宴がはじまるが飲めない身には,小屋の周囲に咲き乱れる高山植物の方が気になる.夢中になって写真を撮っている間に,女性たちが大変な苦労をして水場から水を汲んできてくれた.手が切れるような冷たい水を満杯に入れた大きなコッフェルを両手で持ち,急斜面を登ってきたと言う.手提げの入れ物ならまだしも,ただただ頭が下がります.
 とみさんが小屋前のテーブルでカフェパーティーを開いてくれる.ドリップ式の本格コーヒーだ.その香りのよさと美味しさにみな歓声をあげる.コーヒーとは対照的に自炊した夕食はお世辞にもうまいとは言えぬ代物.「腹に入ればみな同じ」とはにわかシェフの弁.
 セーターを着てシュラフカバーに入り,早々に床につく.少し寒かったが,疲れていたためかしっかり眠れた.

 夜も明けやらぬ早朝,昨夜に負けぬ芯あり飯を流し込み(もちろん自炊;小屋の名誉のため)出発.小屋前から富士山の頭が見える.今日も好天が期待できそうだ.
 朝焼けに染まるイザルヶ岳を往復し,水場でペットボトル3本に水を汲み出発.易老岳を越えしばらくすると正面にどっしりとした聖岳が目に入る.振り返ると光岳もよく見える.

 有志で仁田岳をピストンする.山頂からは来し方,光岳までの主稜線が見渡せる.反対側の行く手は茶臼岳とその左に上河内岳がその勇姿を見せている.
 分岐に戻り,茶臼岳を目指す.仁田池の脇を通過し,岩塊の積み重なる茶臼岳の頂に立つ.ここから上河内岳までは自分にとっては馴染みの路,天気は良し,格好の稜線漫歩である.
 いかにもアルプスらしい森林限界を越えた見通しの良い尾根歩き.茶臼小屋への下山路を右に分け,ゴルフ場を思わせる広々した草原を突っ切り,塔状の奇岩,竹内門の間を通るとまもなく上河内岳の肩に着く.一息入れて上河内岳にアタック.山頂からは聖平をはさんで目の前に聖岳が大きく聳えている.どっしりとした風格のあるその山容はいくら見ていても飽きることはない.聖平小屋も眼下に見える.あとは下るだけ,ここまで来れば今日の行程も見通しが立つ.10分近く頂上で過ごし,分岐に戻りゆっくりと食事をする.山頂往復を含め,ここに40分以上もいたことになる.

 分岐を後になおも快適な尾根歩きが続く.地図では一応,南岳となっているが,実際は稜線の一部といったところで頂上という感じはしない.聖岳の勇姿を正面に見据えた路の両脇にマツムシソウ,ヨツバシオガマ,ウサギギク,ホタルブクロ,ウメバチソウ等々が咲き競っていた.

 聖平小屋では昨日と同様,とみさんのコーヒー店が大人気.光小屋からの長丁場を歩き終えて飲むモンカフェにこの上ない幸せを味わう.

仁田岳山頂より茶臼岳,上河内岳

南岳付近より聖岳

カニコウモリ

光石より光岳

 日の出前に聖平小屋出発.聖沢を赤く染める朝焼けの清々しい空気のなか薊畑分岐までひと登り.ここにザックをデポし,水や防寒衣を兼ねた雨具(とても降りそうもない天気だが)などをサブザックに詰めてのハイキング・スタイル.身体も気持ちも軽やかに聖岳にアタック.歩き出してしばらくすると茜色の空がどんどん明るくなってくる.振り返るとシルエットの山並みの稜線上に,お日様が頭を出し始めた.刻一刻,天空のキャンパスを塗り替える様は,いつ見ても神々しい気分にさせられる.
 ほどなくして右手に富士山が姿を現す.富士が見えると何故かうれしくなる.私にとっては何処から見ても山名を当てられる唯一の山だからだろう.

聖岳山頂より赤石岳(右),中央アルプス(左奥)

 6時40分,待望の聖岳山頂に着く.拍手でふみよさんを迎える.なおみさんが担ぎ上げてくれたワインで乾杯.ふみよさんと「日本百名山百座達成」の横断幕を中心に皆で記念撮影.
 山頂からの展望は四方に広がり,ずーと向こうまで見渡せる.眼前の大きな赤石岳その左に荒川・塩見,少し離れた奥には仙丈,南アの巨峰が恣だ.木曽駒・空木の中央アルプスもくっきりと見渡せる.目を転ずれば,一昨日,登った光岳をはじめその左に仁田岳・茶臼岳・上河内岳の山々が連なっている.

 やがて小聖岳.目の前の視界いっぱいに広がる聖岳は大きくどっしりとした山容だ.小休止していよいよあこがれの聖岳へ向かう.左側が切れ落ちたヤセ尾根を行く.ガレ場にはそこかしこにタカネビランジの群落が見える.山頂直下は石と岩だけの急斜面のジグザグ登り.頭上近くに山頂は見えているのになかなか近づかない.

 大きな赤石岳を左に見ながら奥聖岳を往復する.奥聖岳は稜線上の肩部の感じで,何の標示もなくとても山頂とは思えない.展望は相変わらず申し分なく,いくら見ていても飽きることはない.まさに後ろ髪を引かれる思いで来た路を引き返す.分岐でデポした荷を再び背負い,便ヶ島への長い長い下りがはじまる.

分岐を出発して展望のない単調な下りを2時間,途中,レンゲショウマ等の花が気を紛らわせてくれたりしたが,ようやくと言った感じで西沢度に着く.荷物用滑車のかごに一人ずつ乗って対岸へ渡る.女性たちは「キャキャ」とうれしそうだった.そこから1時間足らずで車を置いた易老度に着いた.
 数年前までは夢のまた夢と思っていた光・聖の2つの名峰に登れたことの幸せをかみしめた.

奥聖岳より上河内岳(左)から光岳(中)の稜線

センジが原より光小屋(左),光岳(右)

易老岳,光岳,イザルヶ岳,仁田岳,茶臼岳,上河内岳,聖岳

【行き先】

【日  程】2000年8月24〜26日
【同行者】ふみよさん(主役)他9名(いつもの山仲間)
【行  程】
8/24:易老度5:40→9:50易老岳10:10→12:20光小屋13:00→光岳→14:00光小屋(泊)

8/25:光小屋5:15→イザルヶ岳→7:10易老岳7:15→仁田岳→9:45茶臼岳9:50→上河内岳→13:20聖平小屋(泊)

8/26:聖平小屋4:50→5:10便ヶ島分岐5:15→5:50小聖岳5:55→6:40聖岳→奥聖岳7:20→聖岳7:35→8:35便ヶ島分岐8:40→10:40西沢度10:50→便ヶ島11:25→11:45易老度