行  程       アクセスカウンター
場 所 着時刻 発時刻
 登山口駐車場 9:25  9:35 
 青崩峠 9:45 9:50 
 崩壊地の頭 10:20  10:30 
 観音山分岐 11:00  − 
 熊伏山 11:15  12:05 
 崩壊地の頭 12:35  − 
 青崩峠 13:00  13:10 
 登山口駐車場 13:25  13:35 

【熊伏山】青崩峠から南ア深南部の展望台へ

山 名  熊伏山
山行日  1999年11月21日
天 候  快晴
歩行時間  3時間(除:大休止)
コース  登山口⇔青崩峠⇔熊伏山

 定年まであと1年半余りとなった頃だった。当時、30年以上に渡るサラリーマン生活で身体の隅々、脳細胞の一つひとつにまで染み込んだ「目標」、「効率」、「スピード」、「協調」等々の呪縛から解き放たれつつあり、「気ままに、のんびり、行きたいときに、行きたいところへ」の単独行の魅力に取り付かれていた。ロマンあふれる青崩峠に行くついでに、熊伏山に登ることにした。山頂は長野県だが、登山口の青崩峠は静岡県だ。

青崩峠

 熊伏山への道もほどよいステップの階段が造られているなど、よく整備されていて歩きやすい。ちょっとした崖の所には大げさな手すりもつけられ遊歩道の趣だ。10分ほどで小ピークに出る。目の前に見上げる三角形の崩壊地の頭の頂から、岩肌が谷底まで一気に薙ぎ落ちているガレの凄さは土留め工事の頼りなさと相まって自然の力の強大さを思い知らされる。

 少し下って遊歩道的道が途切れたとたん、やせ尾根の急登となる。岩や木の根・幹などを手がかりに慎重に登る。あれだけのガレをみせつけられているだけに、緊張すると同時に、ピストン山行なので下りのことが心配になる。

 反射板と三角点のあるちょっとしたスペースの崩壊地の頭(1433m)に着きホッとする。端正な三角形をした聖岳が目の前に見える。
 休憩を終える頃、急登の途中で追い越した、ロングスカートで運動靴姿の女性が登ってきた。息を切らせた様子もなく、余裕の表情だ。相当山慣れた女(ひと)なのだろう。「紅葉には遅かったのかしら? 360度の展望が見たかったので登ってきてしまった。主人は途中で戻っってしまったが、頂上まであとどのくらいかしら?」などと話しかけてきた。

 崩壊地の頭からは、葉が落ちて明るく、緩やかな登りの快適な登山道だ。小さなアップダウンを繰り返しながら、落ち葉を踏みしめ雑木林の尾根道を行く。

 頂上に先客は一人、ちょうど下山するところだった。ひとりの世界。一等三角点からの展望は抜群。聖や赤石はもちろん、北岳そして左端は仙丈(山座同定は自信なし)だろうか? 真っ青な空にところどころ雪をかぶった南アの山々が見渡せる。

 やわらかな陽射しと、マッチ一本で苦もなくガスコンロに火をつけられるほどおだやかな日より、このうえない満足感を味わった。

熊伏山山頂

 9時半頃、登山口に着いた。「塩の道」の石柱が立つ駐車スペースに5,6台の車が停まっていた。
 身支度を整え、出発しようとしたとき、30人ほどのおばさん集団が登り始めるところだった。あわてて数人を追い越し先頭に出たが追い越した手前、後ろが気になる。杉木立の石畳の道に、往時の旅人に思いを馳せることもなく、歩き始めとしては相当に速いペースとなる(追い越しを後悔)。

 10分ほどで数体の石仏が鎮座する青崩峠に着く。道は視界の開けた信州側へと続いている。青崩峠は休憩用の丸太のテラスや1年半ほど前につくられた立派な案内板などすっかり公園風に整備されていた。

 下りはじめて直ぐ、3組7人とすれ違う。下るにつれつぎつぎとたくさんの人が登ってくる。結構、人気のある山のようだ。

 不安だった崩壊地の頭からの下りも、木の幹など手がかりがあり、さほどの困難さはなかった。青崩峠で石仏や案内板の説明文を読み、古のひとびとの苦労に思いを馳せた。

 青崩峠を越える塩の道。かつて、塩を担ぎまた親元を離れた製糸女工が或いは武田の騎馬軍団が通ったであろう道を、ゆっくり下る。
 杉木立からもれる光が、苔むした石畳をまだらに照らし出す。そぼふる雨の中の方が似つかわしい道なのかもしれないと思ったりした。