【利尻岳】日本最北の海上に浮かぶ花の山

シリーズ 日本百名山       
山名 利尻岳(1721m)
山行日 1999年6月20日
同行者 静岡OAA 23名
歩行時間 7時間(山頂休憩時間除く)
アクセス バス、飛行機、船
コース 鴛泊コース往復

 
海に浮かぶ利尻岳
 

利尻島は礼文島とともに、日本最北端の島である。太古の海底火山の噴火によって島全体がほぼ円錐の利尻岳を形作っている。さながら海に浮かぶ山のように見え、富士山のような端正な姿をしているので、利尻富士とも呼ばれている。


夕日ヶ丘展望台
登山前日 6月19日

 静岡発
6:45のチャーターバスで羽田へ、飛行機、船と乗り継いで憧れの利尻島に渡る。鴛泊の「旅館しばた」に着いたのは夕食に近い頃だった。海鮮づくしの晩餐もそこそこに、ドラマチックな夕日が見られると言うので、大急ぎで夕日ヶ丘に向かう。沈む太陽とまさに競争、好奇心旺盛な6人が小走りで夕日ヶ丘の展望台まで一気に登るも、残念!、今、一歩及ばず。
 陽は沈んでもまだ十分明るい。それではと、次は旅館を挟んで反対側のペシ岬展望台へ急ぐ。今度は迫り来る夕闇との競争だ。さすがにここまでくると物好きは半分に減る。
ペシ岬

至近距離に羽を休める海鳥(ペシ岬)

 鴛泊港のシンボル ペシ岬の標高は93m。しかし、その展望台への道は登山路と同じ。石のゴロゴロした急斜面の歩きにくい路だ。ここでも、急ぎ足で展望台へ向かう。

 夕闇迫るペシ岬の断崖に何百羽もの海鳥が羽を休めている。至近距離にうずくまる海鳥はカメラのフラッシュに驚いた風もない。

 展望台から見える鴛泊の街灯り、その向こうには名残の夕日が水平線を赤く染めている。帰路のことなどすっかり忘れて、しばし見とれる。

 暗闇の中、懐中電灯のない下山はやっかいだ。足でも挫き、明日の利尻岳に登れなかったら、いい笑い者だ。慎重に下りながらつらつら思った。「人間、50も半ばになればすっかり落ち着きと風格が出るものだと思っていたが、私は死ぬまでこんなんだろうか……」と。

 健脚揃いの皆にくっついて走り回った報い、明日の悲劇をこの時には知る由もなかった。


ペシ岬から鴛泊の街灯り

甘露泉

登山当日:6月20日

 朝食におむすびをつくってもらい、三合目の登山口まで車で送ってもらう。標高約300m、山頂までの高低差は約1400mだ。10分ほどで、名水百選に選定されている美味しい水の湧き出る甘露泉に着く。水を補給し、いよいよ登山開始。

 針葉樹林帯を黙々と登る。前の人の足元ばかり見て歩くせいか、アマドコロやナルコユリの花がやたら目に入る。傾斜はそれほどきつくない。樹木はだんだん低くなる。左手に海、振り返ると雲のかかった礼文島も見える。辺り一面はマイズルソウの群落だ。

 登りはじめて1時間、朝食休憩後、再び登りはじめるが、どうも調子が出ない。昨夕、あちこち走り回ったのが原因のようだ。ペースが速く感じて仕方がない。
 利尻島に着く前から、「皆について行けるだろうか?」とさかんに心配していた F.S。さんの調子は良さそうだ。F.S.さんはいつも先頭集団で歩き始めるが、途中で何度か息を整えるため立ち止まり、いつのまにか最後尾のサブリーダーの前まで下がってしまうことが多い。そのF.S.さんが、今日はちょっとも立ち止まらない。ということは、いつもよりゆっくりペースなのかもしれない。それについていくのが辛いとなるといささか不安だ。
 五合目付近の右手に雪渓、七合目付近にはエンレイソウの群落、いろいろ目を楽しませてくれるが、傾斜はだんだんきつくなる。あれやこれやの可憐な花が咲いているのだが、立ち止まって愛でる余裕はまったくない。


長官山に向かう(7合目 第二見晴台付近)

長官山より利尻岳山頂を望む
 前方に、写真で見慣れた景色が現れる。左斜面にたっぷりと雪を残し、青空に聳える利尻岳だ。

 長官山でわずかに休憩しただけ、ゆるやかな下りにも拘わらず脚がちょっと変な感じだ。昨日、普通の靴で丘をかけ登ったりして、普段使わない筋肉を使ったからだろう。だんだん皆について行けなくなる。

 ピストン山行だし、迷う心配のない一本道、遅れても何の心配もない。脚をだましだましゆっくり登る。頼みの
F.S.さんは先に行ってしまったようだ。
 避難小屋を通過して30分、九合目に着く。残りは一合、「これからが正念場」と書かれた標柱が少し気になる。

 火山礫の急斜面、踏み出すとズルズルとずり落ちる。ふくらはぎの変なところに力が入っているのが分かる。「やばい! ツルぞ」座り込んで様子を見る。もみほぐしだましだまし登る。

 沓形コースとの合流点からが塗炭の苦しみ。ますますの急斜面、アリ地獄のようなぐずぐずの足元。左脚ふくらはぎに激痛が走る。座り込んで痛みが去るのを待ち、再び登る。次は右のふくらはぎだ。這ってでは登れない、また歩くしかない。あろうことか、今度は両太股が硬直する。片方のふくらはぎがつった経験は何度かあるが、両脚のふくらはぎと太股全てがつるなんて考えてもみなかった。頂上直下で「コリャ!ダメかな」と思う。傍らの岩に腰掛け、先ずは水を飲む。ゆっくりと時間をかけて両脚を揉む。登る人、降りる人みな真剣な顔つきだ。十人十色、眺めている分にはけっこう面白い。

9合目「ここからが正念場」の標柱

利尻岳山頂

 両太股をタオルできつく縛り、意を決して再び登り出す。少しでも足元のしっかりしたところを探しながらゆっくりと登る。ようやくの思いで社のある山頂にたどり着く。「やったー! というよりホッとした」という感じである。先頭グループからは30分近くも遅れたようだ。

 青空と紺碧の海。見下ろせば、そそり立つ岩峰。「遠くまで来たな」「よく登れたものだ」じわじわと感動が広がる。ボーッとしているうちに霧が出てきた。目の前のローソク岩さえ見えなくなることがある。見え隠れする海、刻一刻、移りゆく様もまた良いものである。


利尻岳南峰とローソク岩

利尻岳山頂

山頂を後にするわが一行
 登りにあれほど苦労したザレ場も、さほどのこともなく下ることができて一安心。花を楽しむゆとりもようやくできた。特に、一面に咲き乱れるエゾエンゴサクの淡い青紫色の花に目を見張った。
行 程
場 所 着時刻 発時刻
北麓野営場   -  5:08
甘露泉  5:18  5:25
長官山  7:15  7:25
避難小屋 7:50   
9合目 8:18  
沓形分岐 8:41  
利尻山頂 9:08 9:40
避難小屋 10:26 10:30
北麓野営場 12:40  
 振り返ると、利尻岳に雲が巻き付いている。絵になる眺めだ。名残の勇姿をしっかりと目に焼き付ける。

 五合目付近からは雲のすっかりとれた礼文島が全貌を現す。甘露泉で喉を潤し、全員無事の下山を喜び合った。

利尻岳山頂に雲がかかり出す
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