叱るときは全力で 
  大将(松下幸之助)が叱るときは全力を傾注して叱る。その凄まじさをいやというほど知らされたことがある。大将の了解を得ずに、松下の方針の逆をやったのである。
  すぐ来いッ。晩の十時ごろ。私の姿を見るなり、人前もかまわず、こてんぱんに怒鳴られる。部屋の真中でストーブが赤々と燃えている。火カキ棒で、そのストーブをバンバン叩きながら説教される。ガンガン叩くので、その火カキ棒がひん曲がる。フト、それに気づいた大将は、ぬっとつき出す。『これをまっすぐにしてから帰れッ』あたるべからずの勢い。ついに私は貧血を起こして倒れてしまった。
  一夜明ける。午前七時。始業前。リリンと事務所の電話のベルが鳴った。受話器をとる。大将自らの多少せっかちな声。『あッ、後藤君、別に用事ないねん。気持ちようやってるか。そうか、そりゃ結構や』とすぐ電話が切れる。昨夜、こっぴどく叱られたモヤモヤが、一時にすっ飛んでしまった。
 松下電器副社長 後藤清一
出典:『叱り叱られの記』後藤清一著

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